高円寺千夜一夜   第十一夜


 バービことキーボードの榛村実世子

 今年(2005年)一月七日、高円寺ペンギンハウスで彼女のライブがあった。「haruhi」という名のユニットで自身のオリジナル曲をギターそしてピアノ両方弾きこなして歌った。一曲目の「僕の青」という曲ですぐその世界に引き込まれた。繊細で清潔でそして美しい世界なのだ。それに(何て良い声なんだろう…)聴いている間中私はそう感じていた。

 何を隠そうこの可愛らしい歌い手こそ、「ミッドナイトスペシャル」という私がやっているバンドのキーボード奏者なのだ。

 静岡県掛川市出身。二才からピアノ、そして三、四才頃からヤマハのエレクトーン教室にも通っていた。中学のブラバンの時にパーカッションを始めて、ドラムセットを親に買ってもらい学校の部室に持ち込んで練習をしていたという。高校の時は野球部が甲子園に出場、彼女はブラスバンドでそのときタイコを叩いて応援した。そして大学は東京の国立音大へ進学した。やはりというか私もどこかでそういう話を聞いたのだけれど、音大に入るためにはそのための個人レッスンとかを受けなければならないらしく彼女も東京に声楽を、そしてピアノを名古屋に習いに通ったという。無事合格。けれどピアノを間違えたりすると先生からいきなりシャーペンで手を刺されたりして本人いわく「ベートーベン恐怖症」になっていた。

 親は教職の資格を取って卒業したら地元の学校で教師になれ、と言っていたのだけれど実家は「ネコ・タバコ禁止」の家なので帰りたくはなくって色々なバイトをしながら色々なバンドで活動を続けてきた。そしてついに「仲田修子&ミッドナイトスペシャル」に遭遇してくれたのだ。

 前号で紹介したベースのトナ君こと増吉俊彦(ますよしとしひこ)と共に2004年4月にメンバー募集を知ってセッションの場に現れてくれたのだ。そして即決うちのバンドに入ってくれる事になった時、早速私は彼女に「バービ」というコードネームをつけた。本名は榛村実世子(しんむらみよこ)といい、冒頭で紹介した名前でライブ活動をしているのだが華奢で可愛いその姿を見てなんとなくビーバーのイメージが湧き、それをバンドマンらしくひっくり返して「バービ」となったのである。

 バービはいつもけなげで一生懸命、いじらしいほど真面目なキャラだ。ベースのトナ君もそうなのだけれど二人とも基本的に「育ちの良さ」と「知性」を感じさせてくれる。そういう二人が偶然同時にうちのバンドに入ってくれたのが本当に嬉しいし、私としても彼等の存在によって次々に新曲のアイディアが浮かんできている。

 バービはピアノ、キーボードだけではなくギターも弾けてさらにドラムスも出来るのだ。そのため今まで色んなバンドに誘われて入っていたけれど、ドラマーとしての参加がやたら多かったようだ。高校生のときなど半ば無理矢理ドラムをやらされていた事もあったという。それというのもバービは家にドラムセットを持っていて(中学二年の時親にいい成績を取ったら買ってやる…と言われて頑張って良い成績を取って…約束通り買って貰っていた)さらにお姉さんがギターをやっていたので家にはそのギターアンプまであった。その結果、バービいわく「色んな人達がたかってきて、好きでも何でもない曲を無理矢理ドラムで参加させられていた」…かわいそうなバービ…きっと断ることなど出来ない純情な少女だったんだろうな…。

 中学の時からオリジナルを作りたくて、高校の頃からもう作り始めていたそうだ。私自身もそうだがオリジナル曲を作詞作曲して人前で歌いたい…という人にはどうしてもそれをしないではいられない内的必然性というものを持っている場合が多い(中にはそういうのが無い人もいるが)又それが才能というものと深く関係しているとも思う。バービのオリジナル曲にはあきらかに深い内的必然性が感じられる。だからそういう人が私自身オリジナル曲でライブ活動をする時に楽器プレーヤーとしてサポートしてくれるのは本当に嬉しいことで、その心的必然性が自明のものとして理解しリスペクトし合えるつまり阿吽の呼吸で一緒に音が出せるだろうから…それにもっと即物的な次元では歌がちゃんと歌えるから(これはトナ君もそうなのだけれど)コーラスをやって貰えるのだ。

 彼女は私がメンバー募集する以前に「ミッドナイトスペシャル」のライブに聴きに来ていて、それでメンバー募集のセッションに来てくれて即決で入ってくれたのだが、ブルースとか最初はどうやっていいのか分からなかったけれど「ミッドナイト」にはそれまで聴いたブルースバンドの固定概念を覆すような新鮮さがあって驚いたという。

 今までは「これでいいのか?」という感じでバンドに入っていたのが、プレッシャーはあるもののお客と一緒になって楽しんで演奏できるかんじですごく楽しい…バービはいつものようにちょっとはにかみながらそんな嬉しいことを言ってくれた。

「ペンギンハウス」では私達「ミッドナイト」のほかに彼女のオリジナル曲でのライブ活動も聴ける。

 今この文章を書きながら私は三日前にこんなことを考えていた。
(私にもし子供がいたとしたら、充分バービくらいの年の子がいただろうな…それにしてもうちのバンドはなんて年齢層の広いバンドなんだろう…そのせいか観客の年齢層もものすごく広いよな…それって、まるでアメリカのブルースメンみたいだな…なかなかカッコ良いじゃん…)確かに若き日のジョニーウインターなどもブルースの大御所のサイドメンをやっていて、そのあとスターになったという。

 がんばれ!われらがバービ!


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