連載十五  空を見ていた夏 六月編


 自慢になるかどうかは分からないが、私はUFOを見たことがある。
 それも一回ではなく、六回位はある。確かめたことはないが、きっと多いほうだと思う。

 UFOにあまり興味がない人も多いと思うので念のために書くのだが、UFO
=空飛ぶ円盤=宇宙人の乗り物と思っている人がいるが、UFOとは未確認飛行物体のことで、空飛ぶ円盤のことではない。

 つまり、空を飛んでいるなんだか分からない物体は全てUFOと呼んでいいのだ。ちなみに空飛ぶ円盤はフライングソーサーという。

 何度目かは忘れたが私はUFOを見た。それは浜松の空だった。

 私とバンド仲間達が音楽スタジオを作るために資金稼ぎをしていた頃の話である。当時デパートの屋上にある大きなビアガーデンは生バンドが入っていることが多かった。

 松戸のビアガーデンでの灼熱の体験は前に書いたが、私のビアガーデン体験はもう一度ある。場所は浜松、駅前のデパートのビアガーデンだった。何故そこで歌うことになったかは簡単で、資金をプールするためにそれしかなかったからだった。

 それまで営業バンドとして都内のパブの仕事もしたりしたが、正直ギャラは安く貯金などできる状況ではなかった。そんな時、弾き語り時代からつきあいのあるプロダクションの社長が浜松のビアガーデンの仕事を紹介してくれた。六月と八月だという。

 一ヶ月あいているのは月代わりでバンドを代えたいかららしい。その話を聞いた時、私はこれしかない、と思った。まずギャラが良かった。都内の仕事の倍近い金額だった。次に住居と食事がついていた。

 そのビアガーデンは必ず東京からバンドを呼ぶことになっていたらしく、バンド用にアパートを借りてくれていた。さらに、演奏の前と後に食事が二食出るというのだ。
 
 頑張ればギャラのほとんどをプールすることも可能だった。この好条件が後々トラブルの元になるのだが…。

 私はメンバーにアジッた。我々には音楽スタジオを作る目標がある。だが、資金がない。

 今回のビアガーデンの仕事では徹底的に倹約をして、資金をプールするのだ。そうしなければ我々に未来はない―前に「音楽スタジオ建設秘話」に書いたが、缶コーヒー缶コーラ麦茶禁止令を出し、浜松へ向かったのだった。

 浜松での毎日はコピーされたように同じだった。アパートから駅前のデパートまでは歩いて十五分くらいだった。私たちは昼頃に起きてみんなでデパートまで歩いた。
 
 デパートに着くと屋上には行かずレストラン街に行く。レストラン街にある一軒の洋食屋がビアガーデンと同じ経営だったので、そこで演奏前の食事を食べるのだ。

 全員、昼に起きて何も食べていないので、ものすごく遅い朝食だ。

 そして、セッティングである。

 屋上には鉄パイプで組まれた仮設ステージがあって、楽器や音響設備は一箇所にまとめてブルーシートをかぶせてロープで縛っておいてあった。

 デパートの屋上は誰でも出入りができたし、雨の心配があったので毎日セッティングして片付けての繰り返しだったのだ。

 バンドのメンバーがセッティングをしている間、私はメイクをして、その後リハーサル、本番と続く。

 そして、二回目の食事はビアガーデンの従業員と一緒に食べるまかない飯だった。

 後はまたアパートまで歩く、そんな毎日が続いていた。

 六月だった。私は空ばかり見ていた。というのもビアガーデンには休みがなく、当然私たちにも休みはなかった。

 でも、雨が降れば客は来ない。その日は休みになるのだ。梅雨時だし、きっと何日も休めるだろう、誰もがそう思っていた。

 ところが、その年は記録的な空梅雨で雨がぜんぜん降らなかったのだ。

 バンドの控え室はステージの隣だった。控え室といっても天井があるわけではなく、アルミ製のテーブルと椅子が置いてあり、ちょっとした目隠しがあるだけだから、メイクとかしながら、バンドのセッティングを待ちながら、私は毎日空ばかり見ていたのだ。

 そして空をみながら考えていた。

 人生でこんなに空ばかり見ていたことってあっただろうか?これからもこんなに空ばかり見ることはあるだろうか?たぶんないだろう。こんなに空ばかり見ているんだから、きっとUFOが見られるに違いない。

 何の根拠もなくそんな確信が浮かんだのだ。

 そして、ついにその日はやってきた。

 目の前に夕日が見えていた。

 ぼんやりと夕日を見ていた私はなんか変だなと思った。夕日の隣に銀色に光る丸い物体があったのだ。

 それは夕日に向かって飛んでいるように見えた。飛行機ではなかった。形が違っていたし、逆光なのに夕日の光の何倍も輝いて見えたからだ。

 私はステージにいたメンバーを呼んだ。

 私はすでにメンバーに―毎日空を見ているから、UFOを見つけられるかも―と予言していたので、全員がすぐに集まって来た。

 メンバーは初UFOだったので、みんなちょっと興奮気味で、「見える、見える」と指差しながら口々に声をだした。

 その銀色の物体は十分位は見えていたと思う。そして、遠ざかるように消えていった。

 その物体が何なのかはいまだに分からない。気象観測用の気球かもしれない。

 でも気球が逆光の中で光るだろうか?そう、これこそ未確認飛行物体
=UFOと呼んでいいだろう。

 私は予言通りUFOを見ることができた。でも、最大の問題はUFOではなく雨だったはずだ。

 UFOとの戦い?に勝利した私であったが、天気には負けた。

 六月、私たちは一日の休みもなかったのだ。休みはなかったが私たちは頑張って節約生活を続け、六月を乗り切り東京へ帰った。

 そして、八月再び浜松へ行った私たちに、思いもよらないトラブルが待っていたのだ…。

 東京と浜松との間に横たわるカルチャーギャップ。そして、リハーサル中に起きた大事件。警察官に囲まれた私は…どうなるのか…。 

 八月編につづく。




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